公開部門委員会
水素脆化・応力腐食および水素貯蔵材料

企画

破壊力学部門委員会

会場

オンライン

日時

2021年5月28日(金)13:00〜16:40

趣旨

化石エネルギーの代替物として水素が注目され,燃料電池自動車の実用化が現実のものとなっています.しかし,輸送機械において,水素の貯蔵や運搬の困難さという問題は完全に解決されたわけではなく,むしろ今後の問題として残されているようです.そこで,長年に渡り破壊力学の第一線で活躍された青山学院大学の小川先生に水素容器の安全性に関して,これまでの知見をまとめてご紹介いただきます。さらに,前九州大学水素エネルギー国際研究センター長の山辺先生に金属材料の水素脆化に関する同センターの研究成果をご紹介いただきます。最後に,固体状態で水素を貯蔵する材料として最有力視されているマグネシウムに関して,明治大学の納冨先生に現状と今後についてご紹介いただきます。本企画は水素貯蔵に関する問題を解決する糸口を得る絶好な機会となるものと考えていますので,本テーマに興味を持つ幅広い分野から多数の皆様のご参加をお願い申し上げます.

プログラム

  1. 13:00〜13:20 ビジネスミーティング
  2. 13:30〜16:40 講演および討論

(1) 13:30〜14:20

アルミニウム合金の応力腐食割れと疲労き裂進展

青山学院大学 小川 武史 氏

タイプ3およびタイプ4の高圧水素容器の口金またはライナー部には,アルミニウム合金が用いられている.現在は6061合金に限定されているが,安全性と経済性の両立を目指すためには,適切な評価に基づき使用可能な合金を増やすことが重要である.適切な評価のためには,水素の充填と消費に伴う繰返し荷重に加えて,内圧による持続荷重を考慮する必要があり,応力腐食割れと疲労き裂進展の特性を十分に理解しておく必要がある.本講演では,これらの試験方法および代表的なアルミニウム合金の特性について得られた成果を紹介する.

(2) 14:30〜15:20

金属材料の水素脆化に関する最近の研究成果

福岡大学 山辺 純一郎 氏

水素脆化とは,金属材料中に侵入した水素によって材料の強度や延性が低下する現象である.水素脆化研究が始まり約150年が経過するが,実用上の重要性から,現在もなお国内外において数多くの基礎〜応用研究がなされている.これらの水素脆化挙動を説明する基本メカニズムとして,HESIV(hydrogen enhanced strain induced vacancy),HELP(hydrogen enhanced localized plasticity),HEDE(hydrogen enhanced decohesion)が有力である.しかし,材料によっては水素の影響によってミクロでは軟化し,マクロでは硬化するなど,材料の変形・破壊挙動に及ぼす水素の影響は複雑であり,水素脆化の決定的な基本メカニズムは明らかになっていない.一方,最近では組織観察や水素分析といった種々の方向からのマルチスケール解析が可能となり,新たな知見が増えてきた.最近の研究成果から考えると,上述の3つの基本メカニズム(HESIV,HELP,HEDE)は全て真であり,多くの場合,それらの複数が同時に発現し,マルチスケールで複雑に相互作用しながら変形や破壊に関与しているようである.本講演では,水素脆化研究の現状とこれまでに提案された水素脆化メカニズムについて説明するとともに,産総研・九大 水素材料強度ラボラトリで得られた最近の研究成果について紹介する.

(3) 15:30〜16:20

マグネシウム系水素貯蔵材料の現状と今後

明治大学 納冨 充雄 氏

化石燃料のエネルギー源の代替として水素が注目されている。自動車において化石燃料は容器に貯蔵して自身で運ぶ必要があり,水素もこの仕様は避けることができない。そのため,貯蔵容器は軽量かつコンパクトが要求される。水素の貯蔵には,気相,液相,固相の3形態がありそれぞれ長所と短所を持っている。現状では高圧ガスの状態で耐圧性の高い容器に貯蔵する方法が採用されているが,水素吸蔵合金を利用して固相で貯蔵すれば,常温・常圧付近で標準状態の1/1000の体積に圧縮して貯蔵することが可能となる。問題は重量水素密度が低く,軽量化が達成できないことにある。
マグネシウムの理論水素吸蔵量は6.7wt%であり,次世代の水素吸蔵貯蔵材料として注目されてきた。しかし,放出温度は常圧で300℃以上必要であり,放出温度低下のために遷移金属との合金化などいくつかのアプローチがとられてきている。ここでは,マグネシウムを水素貯蔵材料として利用するための材料開発の微細化と積層化の2つのアプローチの成果を紹介する。さらに,近年活発に議論されるようになってきた,ナノ構造が持つエネルギー不安定化という性質を本材料へ適用する試みについて,最新の研究を踏まえながら紹介する。

(4) 16:20〜16:40 総合討論