平成20年度論文賞・技術賞・学術奨励賞・学術貢献賞・支部功労賞

*** 受 賞 理 由 ***

 

【論文賞】

受賞課題 「基板回転EB-PVD遮熱コーティングの微構造と残留応力」
       「材料」 第57巻,第7号,674頁〜680頁

 
受賞者
     新潟大学 鈴木賢治,(独)日本原子力研究開発機構 菖蒲敬久,(株)東芝 和田国彦
     (株)ファインセラミックスセンター 松原秀彰,川崎重工業(株) 川村昌志


     


≪受賞理由≫ 著者らは,遮熱コーティングの開発・研究に長年にわたり携わってきた.その中で,ナノ構造制御により高機能コーティングを利用した遮熱コーティングの開発を進めてきた.基板を回転させながらジルコニアを電子ビーム物理蒸着 (EB-PVD) したコーティング膜は,耐はく離性および界面安定性が高く,かつ熱伝導率の低い優れた遮熱特性を示す.この基板回転EB-PVD遮熱コーティングは,ナノポア等の複合・配向構造化が,その優れた特性を作り出している.現在,基板回転EB-PVD遮熱コーティングは,実用ガスタービンエンジンの高効率化と信頼性向上の主要技術として大きな期待が寄せられている.
 基板回転EB-PVD遮熱コーティングは強い配向を持つ羽毛状の微構造を持ち,かつ基板界面からコーティング表面まで,その構造も複雑に変化している.本コーティングの実用化において,遮熱コーティングの構造および結晶形態を明らかにすることが重要な課題として残されていた.また,遮熱コーティングは,室温と高温の熱サイクルを受けるため,その残留応力の評価も不可欠な課題となる.
 著者らは,5rpm,10rpmおよび20rmpの基板回転数の条件下でジルコニアをEB-PVD法により成膜したコーティングを用意した.コーティングの表面,断面の詳細な観察とX線回折の結果とを丹念に検討し,柱状組織は (111) 面がピラミッド状に膜厚方向に堆積成長した芯部とその周囲に (100) 面または (111) 面が羽毛状に成長した周辺部から作られていることを明らかにした.また,それらの柱状組織がコーティング面内に強い配向を有すること,回転速度が大きいほど柱状組織間のナノギャップがよく形成され,応力緩和に寄与することも明らかにした.
 著者らは,基板回転EB-PVD遮熱コーティングの結晶形態が明らかに上で,そのコーティングの残留応力をX線法により評価することを可能とした.著者らは,研究室でのX線回折法を用いて面内方向の残留応力分布を解析した.さらに,高エネルギー放射光の持つ大きな透過力と優れた指向性に着目し,ひずみスキャニング法によりコーティング面外方向のひずみ分布を測定し,基板回転EB-PVD遮熱コーティングの残留応力の全体像を解析した.その結果,基板回転速度が大きくなるに従い,面内圧縮の残留応力が緩和され,基板回転法が成膜による圧縮残留応力の緩和に役立つことを実証した.
以上のことから,本論文は基板回転EB-PVD遮熱コーティングの微構造と残留応力に関する優れた論文である.
 著者らの遮熱コーティングの残留応力に関する研究は,本論文のみではなく,研究成果の地道な蓄積を重ねてきたことも周知のことである.ナノテクノロジー後に来るであろう,材料のハイブリッド化,複合化においては異種材料間の残留応力も大きな課題となる.本論文の成果は,それらの解決に貢献することも期待される.また,残留応力の非破壊的評価の方法はX線,中性子およびシンクロトロン放射光と発展してきている.特に,高輝度放射光施設の建設以来,著者らは放射光による残留応力評価の研究の中心を担ってきたことも周知の事実である.今後,高強度陽子加速器を利用した残留応力測定方法の開発が進められており,本論文はこのような新しい光源を利用した研究の趨勢にも大きく貢献するものであり,日本材料学会論文賞に値するものと評価した.

 
 
【論文賞】

受賞課題 「反応性骨材を用いた供試体の表面保護工による膨張抑制効果」

       「材料」 第57巻,第10号,987頁〜992頁


受賞者
     阪神高速道路(株) 松本 茂,佐々木一則,久利良夫
     (株)中研コンサルタント 後藤年芳,京都大学 宮川豊章


    


≪受賞理由≫ コンクリート構造物は道路,ダム,港湾,空港,建築物などの社会基盤を形成する重要かつ優れた構造物であり,今日,そのストックは 90億m3を超えるとも言われる程の膨大な量となっている.かつてはメンテナンスフリーとも言われたが,これまでに種々の劣化現象が確認され,今日では,適切な維持管理が必須であることは論を待たない.少子高齢化時代を迎え社会資本の整備や維持管理のための投資が減少する中で,持続可能な社会の発展を支えるためは膨大なストックを形成するコンクリート構造物の長寿命化を図ることが必要であり,したがって,各種の劣化現象に起因するコンクリート構造物の性能低下を最小限に抑えるための技術が,これまでにも増して重要となっている.
 アルカリ骨材反応は塩害や中性化などと並ぶコンクリートの代表的な劣化現象の1つで,骨材中の反応性物質と主にセメント中のアルカリとの反応によって生じるアルカリシリカゲルが吸水膨張を起こす現象である.アルカリ骨材反応による劣化が進行すると構造物にひび割れが生じたりコンクリートの力学的特性値が低下するが,近年では鉄筋が破断する事例も報告されはじめ,部材や構造物の深刻な性能低下が懸念される場合もあることから,社会的な関心を集めたことは記憶に新しい.我が国では1980年代に高架道路の橋脚で確認されたことを契機として広範に研究されるようになったが,施工や維持管理の面でさらなる技術レベルの向上が求められる現状にある.本研究の対象とする表面保護工は,アルカリ骨材反応により劣化した構造物の補修対策として最も一般的な工法であり,既に様々な材料が開発・実用化されている.その一方で,十分な膨張抑制効果が得られない事例も散見され,材料開発はもとより膨張抑制効果の評価や適用方法などの面においてもさらなる技術向上が求められている.
 本研究は,アルカリ骨材反応を生じさせた供試体に各種表面保護工を施工し,長期間実環境に供すると言う最も実態に近い方法による膨張抑制効果の評価としては,対象とした表面保護工の種類(10種類),暴露期間(15年半)ともに最大級の一つである.アルカリ骨材反応の抑制を目的とした表面保護工は,構造物内部への水分の浸透抑制を重視したもの,内部から外部への水分の蒸発を重視したもの,アルカリシリカゲルの非膨張化を目的としたものなどに分類できるが,本研究ではそれらを網羅的に採用し,かつ同一条件で長期間実験に供しておりその成果は貴重であると言える.さらに,実構造物での塗膜の劣化を模擬するために暴露期間半ばで上塗り部分を除去し,再度屋外暴露を継続するなど,より実環境に近い状況での評価に対する工夫も見られる.再暴露の期間も10年弱と長期にわたり,各供試体の膨張が安定した状態で評価しており信頼性も高い.その成果として,亜硝酸リチウム(内部圧入)およびシラン系表面含浸材とPCM(ポリマーセメントモルタル)を併用した2種類の表面保護工は,表面の塗膜が無い状態でも約10年にわたり十分な膨張抑制効果を発揮することが確認されている.特に,後者のシラン系表面含浸材について,供試体表面近傍の含浸のみで約10年にわたり膨張を抑制することが明らかとなったことは,貴重な成果と言える.また,上記と同種のシランとPCMを用いた別の保護工の膨張抑制効果が上記の表面保護工と異なる結果となり,材料の種類のみでは膨張抑制効果を類推できないという重要な示唆が得られている.
 シラン系表面含浸材が十分な膨張抑制効果を発揮するためには,その含浸の量や深さが重要である事はこれまでにも指摘されているところであるが,一般には含浸面を割裂した試験体を浸漬し,はっ水部の厚さを確認する方法が用いられており,含浸量についての定量的な評価は行われていない.これに対し,本研究では従来には無かったシラン含浸量の定量的評価として,シランが含浸した微量のセメントペースト試料を用いた示差熱分析を試みており,シランが含浸した場合には特定の温度(320〜370℃)で発熱ピークが現れること,シランの量と発熱ピーク面積には良好な相関関係が認められること,表面からシランを含浸させたコンクリート供試体では表面に近いほど発熱ピーク面積が大きいなどの結果が明らかにされている.示差熱分析は,微粉末化したセメントペースとシラン系表面含浸材との混合比を変化させた試料に関するシリーズと,上記,屋外暴露に用いた供試体そのものから採取した試料に関するシリーズの2シリーズについて実施されており,十分な検証が行われている.このように本研究では,長期屋外暴露試験,その供試体から採取したコアの暴露試験,さらには当該コア供試体から採取した試料および別途検証のために調合した試料についての示差熱分析など結論に至る必要な実験が不足なく行われ,その結果を組み合わせた考察が行われている.
 シランの含浸量やその深さはコンクリートの含水状態などに影響されるが,実構造物での施工においては材料の使用量や施工法の規定にとどまっているのが現状である.本研究では暴露した供試体の膨張特性と発熱ピーク面積との関係から,膨張抑制に必要な発熱ピーク面積(160〜300mV・s/mg)の算定も試みられている.これらの値は本研究の対象としたシランについての検討結果ではあるが,示差熱分析は試料の採取方法も含めて比較的簡便に実施できることから他のシラン系表面含浸材への適用は容易と考えられ,今後のデータの蓄積によって,実構造物でのより確実な表面保護工の施工,ひいてはアルカリ骨材反応を生じたコンクリート構造物の長寿命化に寄与することが期待できる.
 以上の理由により,本論文は日本材料学会論文賞に値すると評価した.

 
 
【論文賞】

受賞課題 「混合不均質性を考慮したCVOCs汚染地盤への鉄粉混合量の設計手法とその原位置検証」
       「材料」第57巻,第12号,1240頁〜1247頁


受賞者
     鹿島建設(株) 伊藤圭二郎,川端淳一,京都大学 嘉門雅史

     


≪受賞理由≫ 本論文は,近年環境への意識の高まりや,土地活用および企業CSRとして社会的に問題および話題となっている土壌・地下水汚染のうち,揮発性有機塩素化合物(CVOCs)の浄化対策技術への取り組みである.CVOCsは,溶剤・洗浄剤として広く使われていたトリクロロエチレンやテトラクロロエチレンなどの物質であり,主要な汚染物質である.これらの物質は,比重が高く,粘性が小さいため地盤内に浸透しやすいため,広域の地下水汚染を形成する特徴があり,実際に地下水汚染として非常に多く検出されている.こうした広域地下水汚染を形成するCVOCsの汚染地盤を,いかに安価に浄化するかが,浄化対策における最大かつ急務の課題となっており,非常にタイムリーな題材である.
 本論文では,CVOCs汚染地盤の浄化に鉄粉を還元材として用いている.鉄粉を還元材として使用した化学的分解技術は,安価に浄化するための技術として注目されている.この技術は,主に米国で1990年代より開発・適用されてきたが,日本では発展途上であり,日本のニーズに合わせて,技術を成熟化する必要がある.日本のニーズとは,国土が狭いため汚染された土地も早急に浄化して,土地を再利用したいニーズである.本論文での取り組みは鉄粉による浄化技術をそれに対応できるように改善するものである.論文の特徴・優れた点としては以下の事項が挙げられる.
 
・鉄粉混合量の設計手法について,理論を踏まえた上で室内および実汚染地盤でのデータを示し,論理的に妥当性を検証している.特に,当分野における実汚染地盤でのデータは貴重であり,かつ価値のあるデータを示している.
・鉄粉混合不均質性の浄化効果への影響の評価については,過去に例がない取り組みであり,かつ工学上必要な検討であることから,今後の類似した研究において参考となる手法である.
・鉄粉混合量の設計手法や鉄粉混合の不均質性の浄化効果への影響について,論理的に述べるだけでなく,実用性を考慮した内容となっており,今後実務に活用されることにより,社会への貢献が期待される.
 
 本論文で示された技術は,鉄粉の高い分解性能を活用するとともに,費用対効果を考慮した迅速な設計が可能となり,さらに透水性を維持できる特徴を有した施工技術の活用を前提としており,合理的かつ効率的に浄化を行うことができると考えられる点で優れている.本論文で示された手法を活用すれば,従来できなかった原位置での短期間での浄化が可能となる.これにより,日本におけるニーズである汚染された土地の再利用の促進が期待される.
 以上の理由により,本論文は日本材料学会論文賞に値すると評価した.

 
【技術賞】

受賞課題 「双ベルト連続鋳造法による自動車用5000系アルミニウム合金板材料の開発」

受賞者
     (株)本田技術研究所 後藤 明,風間 仁,林 登
     日本軽金属(株) 趙 丕植,穴見敏也,大竹富美雄


     


≪受賞理由≫ 地球温暖化抑制の観点から,自動車軽量化による燃費向上のニーズは依然として高い.アルミニウム合金材料は軽く,リサイクル性に優れることから鉄鋼材料に代わる自動車部品用材料として注目されている.しかし,アルミニウム合金板材料は鋼板材料と比べ成形性が劣り,改善が求められている.さらに,大量生産される自動車向け材料として,エネルギー消費の少ない環境に優しい製造方法も求められている.
 双ベルト連続鋳造法は,従来自動車用材料に用いられていたダイレクトチル製法において全7工程あった製造工程(溶解・鋳造・切断・面削・均質化・熱間粗圧延・熱間仕上げ圧延)を溶解と連続鋳造の2工程で担い,製造エネルギーや製造歩留まり面で大幅な合理化ができ,更に鋳造時の急冷凝固作用により金属間化合物と結晶粒が微細化され成形性の向上が期待できることからこれらニーズに合った製法と考えられている.
 開発材の合金成分はAl-3.5Mg-0Mn-0.2Feである.Mgの添加量は自動車用材料としての抗張力を確保するのに必要な量として設定された.次にMnであるが,Mnは再結晶の安定化と微細化,更に固溶強化を目的に添加する元素である.従来のダイレクトチル製法では鋳造時の冷却速度が遅いことから再結晶の核サイトとなる金属間化合物は粗大に生成し必要とされる化合物の量を確保する為にMnを添加している.この開発では,双ベルト連続鋳造法の場合鋳造時の冷却速度が速いことから金属間化合物は微細に分散し,Mn添加無しでも不純物元素として存在するFe系の金属間化合物で十分な再結晶の核サイトが得られることを見出した.また固溶強化作用を持つMnを添加しないことにより,目標とする抗張力を確保した上で,耐力値の低減化を図ることによりプレス成形時の形状凍結性を改善している.
 開発材料の機械的特性は抗張力235MPa,耐力130MPa,伸び29%,また結晶粒径は10mmと微細な組織を示し,良好な成形性と耐応力腐食割れ性を有している.開発材の成形性については,成形品の解析から破断部に明瞭な剪断帯が認められないこと,また破面には細かなディンプルが一面に存在することから,破壊の起点となりうる金属間化合物のサイズが細かい為にボイドの形成・成長が起こり難く,優れた成形限界能を示した.また耐応力腐食割れ性については,割れの原因となる結晶粒界へのb相の析出状態が鋭敏化処理 (30%CR + 120℃ エ 168Hr) を行っても断片的で不連続析出であり,過酷な通電法試験でも応力腐食割れを発生しない優れた性能を得た.
 以上のように今回開発された双ベルト連続鋳造法を用いた5000系アルミニウム板材料はシンプルな工程とその製法に最適な合金成分設定により,優れた成形性と耐応力腐食割れ性を有し,その他自動車用材料として要求される特性を満足する材料であり,今後の適用拡大が期待される材料である.
以上の理由により,日本材料学会技術賞に値すると評価した.

 
【技術賞】

受賞課題 「軸方向に凹部を配した高衝撃エネルギー吸収部材の開発」


受賞者
     住友金属工業(株) 中澤嘉明,田村憲司,吉田経尊
     立命館大学 日下貴之,京都大学 北條正樹


     


≪受賞理由≫ 自動車には,衝突事故の際に,衝撃エネルギーを吸収して乗員の保護や車体損傷を抑制するための部材「衝撃吸収部材」が装着されている.衝撃エネルギーは,車両の前後方向に装着された当部材が軸方向の衝撃荷重を受け,蛇腹状に圧壊(連続的な塑性座屈変形)することにより吸収される.
衝撃吸収部材の従来設計では,部材軸方向に直交して配した凹部(クラッシュビード)を活用して変形の起点とし,軸方向衝撃荷重によって生じる連続的な塑性座屈変形が制御されていた.ところが,クラッシュビードが優先的に潰れやすい(座屈荷重が小さい)ため,部材の衝撃吸収エネルギー量が必然的に低く,また衝撃荷重入力方向によってはビードが効果的に作用せずに安定した連続的な塑性座屈変形を発生しないという課題があった.
このような背景のもとで新たに開発した技術は,衝撃吸収エネルギーを効果的に高める目的で,短い波長の進行性塑性座屈を安定して発生させる断面設計技術に基づいた塑性座屈変形の制御であり,また,その技術を活用した優れた衝撃吸収エネルギーを有する新しい衝撃吸収部材に関するものである.以下にその詳細を説明する.
現行の衝撃吸収部材に関する設計は,部材軸方向に衝撃荷重が作用した際に座屈変形が容易に安定して生じるように,意図的に弱い箇所を設け座屈変形の起点(クラッシュビード)としていたが,部材内において弱い箇所が塑性座屈変形を生じる(荷重が下がる)ために衝撃エネルギー吸収量が低いという課題があった.そのために近年の衝突安全性の向上に関する要求に対しては,部材板厚を増加させる対策が必須となっていた.すなわち,地球環境保護を背景とした省燃費化に貢献する部材質量低減との両立は不可能となっていた.
 このような課題を解決するため,受賞者は,クラッシュビードによる座屈変形の起点を設けず,断面形状設計による優れた衝撃吸収性能を実現する塑性座屈変形制御技術を確立し,自動車衝撃吸収部材用の新しい薄肉多角形部材を提案した.本開発技術による塑性座屈変形制御は,部材軸方向に平行に凹部を配して断面形状因子である平面部幅を最適範囲となるように短く設計し,短い座屈波長での安定した塑性座屈変形と優れた衝撃エネルギー吸収性能を実現するものである.その結果,現行設計部材よりも30%超軽量でありながら所望の優れた衝撃エネルギー吸収性能を満足する部材を確立した.
 技術検討は,高精度な数値解析と衝撃実験の両面から,本技術内容の数値解析より導かれるパラメータ依存性の論理を構築し,その妥当性を検証した.まず,塑性座屈変形制御の基本概念の構築にあたっては,実際の衝突において生じる最大103/sec程度までのひずみ速度における材料特性を検力ブロック式の高速引張試験によって高精度に調査して数値解析に反映させ,また,部材で生じる変形を高精度に表現するための数値解析条件,例えば,要素分割条件,接触条件等の最適化とあわせ衝突解析を実施した.解析モデルは,正多角形モデルを基本として,座屈変形と断面形状因子の因果関係を定量化する検討を行った.次に,その基礎検討から得られた知見を元に,自動車に実際に装着される扁平部材を対象とした最適断面を設計し,数値解析により評価した.そして,一連の数値解析による研究から得られた最適部材を実際に製作し,落錘型衝撃実験と台車式衝突実験を行って,その部材が有する衝撃吸収性能を評価した.最後に,部材製作に適用する素材を軟鋼から各種高張力鋼板まで変化させ,また部材に生じる衝撃荷重の入力方向を部材軸方向から10deg.の斜め方向に変化させて落錘型衝撃実験を行い,本塑性座屈変形制御技術の妥当性を確認した.
 本開発技術によって,自動車の衝撃吸収部材の大幅な軽量化(従来板厚1.6〜1.8mm→1.0〜1.2mm化)と高い衝撃エネルギー吸収の両立が可能となり,地球環境と衝突安全性向上の社会ニーズに貢献するとともに,軽衝突時の事故車両の損傷を抑制することによる交換部品の削減によって修理費の低減が可能となり,適正な保険料率の設定によるカーユーザーの自動車維持費を低下し,クルマ社会に貢献した.また,本技術は,自動車以外の輸送機や様々な構造物に装着された衝撃吸収部材,すなわち軸方向に衝撃荷重を受けて塑性座屈変形を生じ,衝撃エネルギーを吸収する部材に適用可能であると考えられる.これらのことから,日本材料学会技術賞に値するものと評価した.

 
【技術賞】

受賞課題 「多連式軸荷重疲労試験機の開発」


受賞者
     (株)テークスグループ 古澤達哉,立命館大学 酒井達雄,トヨタ自動車(株) 滝澤亮平
     豊田工業高等専門学校 中島正貴,富山大学 塩澤和章,小熊規泰,高松工業高等専門学校 岡田憲司
     電気通信大学 越智保雄,広島大学 菅田 淳,鹿児島大学 皮籠石紀雄
     明石工業高等専門学校 境田彰芳,熊本大学 坂本英俊


     
     

≪受賞理由≫ 本技術は,本会正会員12名の研究者グループの長年の信頼性評価研究の経験と創意・工夫をもとに開発されたもので,4本の試験片に対して引張り圧縮繰返し荷重を同時に負荷できる画期的な油圧式疲労試験機の開発に結実している.現在,疲労試験機としては電気油圧サーボ型の疲労試験機が最も一般的であるが,高価であること,冷却水が必要であること,試験片1本ずつを疲労試験する必要があり,多数の疲労試験結果を短期間で取得することができないなど,いくつかの困難を有している.電気油圧サーボ型の場合は,特殊な荷重波形やプログラム変動荷重の付与などが可能であり,多くの優れた特徴を有するが,一方で,疲労試験機のユーザー側から考えると対象とする荷重波形は圧倒的に正弦波が多く,電気油圧サーボ型疲労試験機が有する特徴を常にすべて有効利用している訳ではない.換言すれば,特殊な機能はなくても正弦波荷重が長期間安定して負荷できる安価で高能率な疲労試験機が開発できれば,疲労設計用の基礎データを取得するような産業界でのニーズだけでなく,種々の材料の疲労現象を解明する学術的な疲労試験のニーズに対しても,極めて大きな貢献が期待される.
 近年,109回を超えるような超高サイクル領域の金属材料の疲労特性の解明が国内外ともに大きな課題になっているが,通常の50Hz〜60Hz程度の負荷速度で109回の繰返し荷重を負荷するのに200日程度の長期間を要する.超音波疲労試験を行うと試験期間を短縮できるが,負荷速度の影響や試験片の発熱,さらにこれを冷却するための冷却法の影響などが不可避的に重畳されることになる.したがって,このような問題が発生しない負荷速度で実施せざるを得ない現実を考慮すると,一つの解決策としては,同時に複数の試験片に対する疲労試験が実施可能な,何らかのマルチ式疲労試験機の開発が挙げられる.本研究グループはこの観点から,すでに4連式回転曲げ疲労試験機を開発し多くの研究成果を報告しているが,回転曲げ荷重に比較して軸荷重の場合は,多連化するための高度の技術を要するため,これまで多連式軸荷重疲労試験機は実現していなかった.
 このような経緯の中で,本研究グループは負荷速度を80Hzで固定し,1本の試験片に対して最大負荷振幅20kNの負荷容量で,同時に4本の試験片に対する疲労試験が可能な油圧式の4連軸荷重疲労試験機の開発に成功した.試験片ごとの負荷周期について位相を少しずつ計画的に遅らせることで,油圧ポンプは試験片1本用の容量のままで繰返し負荷が可能となり,低価格・低エネルギー消費が実現されている.また,そのため空冷式の油圧ポンプで十分な能力が確保され冷却水が不要となり,ランニング・コストの低減にも直結している.本試験機開発のための核となる技術は,油圧ポンプで発生させた高圧作動油を4つの独立したアクチュエータに分配するロータリー・バルブの開発と,制御なしで長期間にわたる荷重安定性を実現したシンプルな油圧経路の開発にある.この核心技術を中心に特許申請を行い,「多連式疲労試験機システム」(特許第3688610号)として特許も取得している.
 本試験機は,開発直後から利用希望が相次ぎ,すでに国内で14台,海外(中国)で2台が頒布され,とくに金属材料の超高サイクル疲労現象の解明の分野で多くの研究成果に繋がっている.このように,本技術は「金属疲労」に関する学術的研究の一層の発展と実機の長期信頼性確保のための疲労設計基礎データ取得の両面で,今後も引き続き幅広く有効利用が期待され,社会的な貢献度が極めて高いと判断される.
 上記のように,本技術は省エネルギー・高効率化・低コスト化を同時に実現した世界に例のない画期的な疲労試験機であり,材料開発,材料評価,製品の信頼性設計等の幅広い分野でその成果が還元されることとなり,低炭素社会実現の観点からも大きな効果があると考えられる.また,本会の会誌「材料」【Vol.57, No.2, (2008), p.207】の新技術・新製品トピックスにも当該記事が掲載されており,日本材料学会技術賞に充分値するものと評価した.

【学術奨励賞】

受賞課題 「ナノスケール多角的解析による疲労微視機構の解明と高強度材料開発に関する研究」
受賞者 (株)豊田中央研究所 木村英彦

     

≪受賞理由≫ 近年,結晶粒微細化材料に代表されるように,材料微視組織を積極的に制御して高強度化を図った新材料が多く開発されているが,それらの実用時に問題となる疲労特性はその材料微視構造に大きく依存することが知られている.このような状況下で,組織微細化による新材料の活用を推進,展開していくためは,その種の材料の強度評価において材料微視構造の影響を考慮する必要性が一段と高まっている.しかしながら,従来の研究では定性的評価に留まることが多く,材料の微視構造にまで踏み込んだ精密な疲労損傷評価は困難であった.このような観点に立脚し,受賞者は,ナノスケールの計測法を疲労特性評価に応用することにより,疲労損傷の微視機構を定量的に評価・解析する手法を新たに構築した.受賞者は,構築した新手法を適用することにより,超細粒結晶材料などの新材料における疲労微視機構を解明し,より高精度な疲労強度評価を可能とした.さらに,これらの成果に基づいて,高強度を発現しうる最適材料構造に関する発展的研究を行ってきた.上述の受賞者の業績について,以下に具体的に記す.
 まず,受賞者は,従来の電子顕微鏡計測に加え,原子間力顕微鏡による3次元形状計測,電子線後方散乱回折法による結晶方位解析,および表面電位顕微鏡による粒界エネルギー評価など,ナノスケールの新しい計測法を損傷評価に適用する先駆的試みを行った.疲労過程において,これらの多角的計測を同一の微視領域で連続して行い,計測結果を統合して解析することにより,疲労の微視機構を解明する手法を構築した.これにより,疲労き裂先端の特異応力場および局所的結晶方位に基づいて活動すべり系を議論できるすべり因子など,微視的損傷を評価するためのパラメータを他に先駆けて考案した.本解析手法は,材料の微視構造まで考慮した高精度な疲労寿命予測法の構築や,新材料の疲労機構の解明などに向けて,今後広く貢献しうる重要な研究成果であるといえる.
 次に,受賞者は,超細粒鉄鋼材料の疲労挙動をナノスケール多角的解析法により検討し,粒界のすべり阻止効果により通常の鉄鋼材料とは異なる損傷発生機構が発現することを初めて明らかにした.また,結晶粒径が300nm程度の超細粒銅においては,粒界移動と粒内ひずみの再分布に代表される材料微視構造の変化が,疲労損傷をもたらす支配因子であることを解明した.上記の微視的解析法に加えて,放射光や中性子による残留応力および損傷評価を行い,超細粒材料においてき裂先端近傍の応力分布や回折線半価幅の変化などを究明した.これらの成果から,結晶粒径や集合組織などを考慮した強度評価法を提案して疲労強度・寿命予測法を高精度化しただけでなく,超細粒結晶材料などの先端材料の実用化にも寄与する成果を上げている.また,種々の負荷形態におけるステンレス鋼の疲労き裂発生・進展挙動についても微視的な検討を行い,疲労初期損傷を評価するための支配パラメータを提言している.さらに,細束X線回折法などを組み合わせた解析により,形状記憶合金TiNiのき裂先端におけるマルテンサイト変態の特異挙動を明確にするなど,多種の材料においても従来のマクロな評価法では解明できなかった損傷・破壊の微視機構を明らかにした功績は大きい.
 また,受賞者は,材料微視構造の最適化による高強度発現材料も開発している.すなわち,疲労限度が高いにもかかわらず,き裂の進展特性では劣っていた超細粒材料において,結晶方位を制御することにより破面粗さ誘起のき裂閉口を増大させることによって,優れたき裂進展特性を発現しうることを示した.これに基づき,結晶粒径や集合組織などの材料微視構造の最適化を指向した高強度材料の開発指針を提示した.また,材料微視構造の能動的制御により高強度化や破壊制御を行うことができる知的材料として,TiNiアクチュエータとCFRP母材を組み合わせた材料を実際に製作することにより,疲労き裂進展速度を2桁以上低減できることを示すなど,その有効性を実証している.このように,受賞者は次世代の高強度・高機能材料の開発に対しても有用な研究を展開し,今後のさらなる発展が期待される.
 以上より,受賞者は,材料学に関する優秀な学術業績を上げるとともに,将来の発展も大いに期待されるものと認められ,日本材料学会学術奨励賞に値するものと判断した.

 
【学術奨励賞】

受賞課題 「ASR劣化橋脚における鉄筋破断の現象解明と補修・補強技術の開発」
受賞者 (株)ピーエス三菱 奥山和俊

     

≪受賞理由≫ アルカリシリカ反応(ASR)は,コンクリート中の骨材に含まれる,ある種のシリカ鉱物と細孔溶液中の水酸化アルカリとの化学反応によりASRゲルが生成し,ASRゲルが吸水・膨張することによってコンクリート構造物に有害なひび割れや変形を発生する劣化現象である.近年,このASRの発生によって,コンクリートの圧縮強度やヤング係数が低下するだけでなく,コンクリート構造物の鉄筋が降伏や破断する現象も報告されており,深刻な社会問題となっている.これまで,ASR劣化コンクリート構造物には様々な補修・補強工法が適用されてきたが,個々の補修・補強工法がASR膨張の抑制に対して実際にどの程度効果があったかについては必ずしも明確になっていないのが現状である.従って,ASR劣化コンクリート構造物の維持管理における諸問題を解決するためには,コンクリートに使用されている反応性骨材の種類やその岩石・鉱物学的性質を明らかにする材料科学的なアプローチとともに,コンクリート構造物のASR劣化の進行状況や補修・補強後の膨張抑制の効果をモニタリングや非破壊検査などにより正確に把握し,その結果を補修・補強工法の改良に活かすことが重要となる.
 このような観点から,受賞者は,材料学会誌に掲載された「能登産の安山岩砕石のアルカリシリカ反応性とコンクリート橋脚の膨張性状のモニタリング」の論文において,まず能登地方のコンクリートのASR劣化現象に関して,鉄筋破断が発生したRC橋脚に着目し,コンクリートに使用された骨材に含まれる反応性鉱物をX線回折分析および偏光顕微鏡による観察により同定するとともに,この種の反応性骨材のアルカリシリカ反応性とコンクリートの残存膨張性の特徴をコンクリートコアの各種促進膨張試験により明らかにしている.次に,ASR劣化RC橋脚の維持管理の観点から,RC橋脚に超音波伝播速度試験を適用し,超音波伝播速度とASR劣化度との関係を調べることにより,補修・補強設計に役立つ橋脚部位ごとのASR劣化度を非破壊検査により評価する方法を開発している.また,亀裂変位計によるひび割れのモニタリングの結果より,補強前後でのASR劣化の推移を正確に把握し,本手法が最適な補修・補強方法を決定するための基礎データを得るのに重要であることを示している.一方,ASR膨張による鉄筋破断の現象解明に関しても,破断鉄筋の力学的性質の変化や破断鉄筋の亀裂の進展状況を詳細に検討し,これらの分析結果からASR膨張による鉄筋破断のメカニズムを提案しており,鉄筋に脆性的な破壊が生じる条件や低い拘束鉄筋比の構造物において連続的な鉄筋の破断が発生する損傷形態の特徴を明らかにしている.
 以上のように,受賞者はASR劣化コンクリート構造物に対して新しいモニタリング手法や非破壊検査法を開発し,鉄筋破断が発生したASR劣化コンクリート構造物の劣化機構を解明するとともに,その成果を補修・補強工法の改良に役立てている.さらに,受賞者はASRが発生した構造物の劣化機構の解明と補強技術の開発において工学的かつ学術的に優れた研究業績が多数あり,日本材料学会学術奨励賞に値するものと評価した.

 
【学術奨励賞】

受賞課題 「繊維強化複合材料の損傷進展解析と信頼性評価に関する研究」

受賞者 大阪大学 倉敷哲生

     

≪受賞理由≫ 地球温暖化や化石資源枯渇による環境・エネルギー問題の深刻化を受け,航空・宇宙,車輌分野では高強度,高剛性,軽量性に優れる繊維強化複合材料を構造部材として積極的に用途展開を図ることが期待されている.しかし,複合材料では金属材料とは異なり,力学的異方性を有し異材界面が偏在することから損傷発生・進展挙動が複雑であり,そのメカニズムの解明は現在でも重要である.かかる状況において,受賞者は早くからこの研究に取り組み,多くの知見を供してきた.なかでも,繊維強化複合材料の機能発現のため,ミクロ構造設計を可能とする数値解析システムの創成を展開し,マルチスケール解析による繊維強化複合材料の損傷挙動評価と信頼性評価に関する研究において重要な知見を得ている.以下に受賞の根拠となる主要な研究成果を示す.
 
(1)繊維強化複合材料の損傷進展解析
 繊維強化複合材料積層板に外力が作用した場合,外部観察では確認が困難な内部損傷が生じ,座屈強度や疲労寿命の低下を招く.そこで,これらの損傷の連鎖破壊を評価し得る損傷進展解析手法を損傷力学に基づき構築し,CFRP積層材の衝撃損傷評価を実施している.その成果として,実験観察が困難な繊維束内部の損傷状態の把握を可能とし,損傷面積や進展方向について実験結果と良い一致を示す先進的な成果を得ている.また,本手法を織物複合材料にも適用している.特に,織物複合材料の繊維束内の繊維含有率は一定ではなく分布を有する点に着目し,繊維含有率を意図的に傾斜させた試験片の作製に取り組み成功している.これを用いて,繊維束中央部の繊維含有率の制御により初期損傷発生の遅延が可能である成果を解析・実験の両面から初めて明らかにし,ミクロ構造設計により損傷発生を制御し材料の高機能化が可能である成果を得ている.
 
(2)マルチスケール解析による織物複合材料積層材の損傷挙動評価
 損傷力学における損傷進展解析手法と計算力学における重合メッシュ法に着目し,マルチスケールの観点からの織物複合材積層材の損傷挙動評価の着想に至り,解析・実験の両面から研究を進めている.特に,実用上,積層材成形時に避けられない積層ずれの現象に着目し,積層ずれの位置や,各層の繊維束の長径・短径変化,繊維束内の繊維含有率変化の各因子が損傷進展挙動に及ぼす影響をマルチスケール解析により明らかにしている.この成果に基づき,繊維束を扁平化させ薄肉化を図ることにより樹脂含浸性や成形性の向上が期待される開繊織物複合材料を対象にマルチスケール損傷進展解析を実施している.開繊織物積層材においても繊維含有率分布の制御による初期損傷抑制法が有効である成果を得ており,本手法が開繊織物積層材のさらなる強度向上に寄与するものと期待される.
 
(3)縫合繊維強化複合材料の損傷進展挙動評価
 航空・宇宙分野以外の一般構造への適用も期待される縫合繊維強化複合材料を忠実に有限要素モデル化を行う場合,縫合糸の複雑形状に起因し要素分割が煩雑となり,縫合糸と積層材を一体としてモデル化することが非常に困難である.そこで,縫合糸と一方向繊維強化複合材積層板を分離して有限要素モデル化を行い,各々のモデルを重ね合わせて解く新たなマルチスケール解析手法を先駆けて開発している.これにより従来は不可能であった縫合繊維強化複合材のモデル化を可能とし,(2)の成果に基づいて損傷進展解析を可能とするとともに,計算の高効率化を実現している.さらに,縫合パターンの差異により損傷進展挙動が異なる点を明らかにしており,従来では困難であった使用ニーズに適合する縫合糸の選択が可能である成果を得ている.
 
(4)材料・構造物の信頼性評価手法に関する研究
 信頼性工学の立場から,携帯電子端末用材料や化学プラント構造物といった産業分野を対象に,材料・構造物の信頼性評価手法に関する研究を実施している.携帯電子端末用材料について金属製薄板の疲労寿命評価手法を提案し,圧延による力学的異方性が疲労寿命に及ぼす影響を明確にしている.同手法をBGAはんだ接合部に適用し,時間的および経済的な負担が大きい多標本の熱サイクル疲労試験に対して,小標本のデータからの疲労寿命推定を可能とする成果を得ている.また,爆発引火の危険性の高い化学プラントの安全性支援の観点から,地震発生時に周辺地域に影響を及ぼす気体拡散や火災延焼の影響を評価し得る解析手法も構築している.

 一連の研究成果は,繊維および繊維束のミクロスケールから,織り構造や縫合構造などのメゾスケール,さらに構造体としてのマクロスケールの考慮が不可欠である繊維強化複合材料の損傷挙動評価技術と信頼性評価として優れている.また,製品の要求性能に合わせて材料設計を可能とし得る複合材料の特性を大いに引き出し,構造体設計や高機能材発現への発展性も大きい.以上のように受賞者の研究は学術的に高い価値を有しており,また,その成果は広く産業社会に貢献するものと考えられることから,日本材料学会学術奨励賞に値するものと判断した.

 
【学術奨励賞】

受賞課題 「プラズマ溶射遮熱コーティングの熱疲労損傷機構の解明と寿命延伸」

受賞者 新潟工科大学 山崎泰広

     

≪受賞理由≫ 世界的規模でのCO2削減,低環境負荷が必須となっている.このような情勢のもと,起動性能と熱効率に優れる発電用ガスタービンの重要性が増している.この機器開発のためには,主要高温部材である超合金材料と遮熱コーティングの信頼性確保がキーテクノロジーとなっている.
 このような社会的要請の下,受賞者は,日本材料学会高温強度部門委員会を活動の基盤とし,結晶制御Ni基超合金の高温き裂問題に関する研究や,超合金耐食コーティング材や金属基複合材料の高温低サイクル疲労および熱機械疲労強度に関する研究で培った知見・成果を生かしながら,遮熱コーティングの高温強度・界面強度に関する系統的な検討を行ってきた.
 すなわち,(1) 熱負荷による損傷挙動の解明と簡易寿命予測法の提案,(2) 密着強度の定量評価と熱疲労損傷の影響およびはく離過程のin-situ観察,などの検討を行った.あわせて,(3) 遮熱コーティングの密着強度と施工プロセスの関連性,(4) 自立セラミックストップコーティングの機械的特性とプロセスパラメータの関連性,などについて実験的・解析的に検討してきた,これら一連の検討を通して得られた知見は,遮熱コーティングシステムの最適施工プロセスの指針策定とそれに伴う寿命延伸に対して工学的/工業的にきわめて重要な情報を提供するものである.例えば,熱サイクルの繰返しにより遮熱コーティング試験片中に発生する損傷が,従来の金属材料と類似して,繰返し依存型の損傷と時間依存型の損傷からなることを示し,この知見に基いた簡易寿命評価式を提案しており,この提案式は国際的な評価も高い.
 以上のように,受賞者がこれまでに行ってきた高温環境下での遮熱コーティング材の強度評価技術に関連した先駆的研究の遂行力,および,それらの将来的発展性の双方において卓越しており,受賞者は日本材料学会学術奨励賞に値すると判断した.

 
【学術奨励賞】

受賞課題 「微視組織を有する材料の相変態と力学挙動に関する数値解析手法の構築」
受賞者 山形大学 上原拓也

     

≪受賞理由≫ 近年,フェーズフィールド法は,相変態を扱う数値解析手法の中でも,デンドライトのような複雑な凝固組織形成を再現できる手法として注目され,盛んに研究が行われている.受賞者は,この手法にいち早く着目し,力学的な挙動を連成することによって,材料内部の微視組織変化に伴う応力変化を解析するモデルを新たに提案している.従来のフェーズフィールドモデルは,結晶成長学や金属組織学の分野において,その界面の形態変化を表現するのみであったが,この連成モデルを用いることによって,微視組織内の応力変化や残留応力の発生など,力学的挙動を同時に表現することができるようになる.一方,相変態に伴う力学挙動の数値解析手法としては,相変態を各相の体積分率変化で表現した手法が既に広く用いられてきたが,その場合,材料組織は領域平均的な体積分率でしか表現されないため,微視組織そのものの生成およびその力学特性への影響は考慮できない.これに対して,フェーズフィールドモデルでは,複雑な形状を有する多結晶組織の形成や,固相内における析出相の生成が再現可能である.したがって,本連成モデルによって微視組織と応力場を動的に連成した解析が可能となったという点は,画期的であるといえる.また,定式化にあたっては,界面エネルギーの影響を含めた自由エネルギーおよびエントロピーの定義から,変形や相変態によるエネルギー変化を含めた熱力学的な考察に基づく導出を行っており,理論的にも明快であるといえる.
 次に受賞者は,これらの基礎式に対して,有限要素法を用いた数値解析を行っている.まず,析出相が生成・成長して粒界が形成される過程のシミュレーションでは,相変態によって材料内部に応力分布が生じ,変態の進行によってその分布が変化しつつ,最終的には残留応力分布が生じる過程を再現している.また,デンドライト組織が形成される凝固過程へも本モデルを適用し,微視組織内部に生じる複雑な応力分布を再現している.このような微視的領域における応力を実験的に測定することは困難であり,数値シミュレーションによる評価は重要である.したがって,それを可能とした数値解析手法の構築は大きな価値をもつといえる.さらに受賞者は,単なる数値解析手法の開発だけではなく,物理的な現象解明に関する取り組みも行っている.すなわち,二相界面および結晶粒界における力学挙動について,分子動力学法による検討を行っており,今後はその知見をフェーズフィールドモデルに導入することが期待される.このように構築されたフェーズフィールド法に基づく応力解析モデルは,実験との定量的な対応や,粒界挙動の詳細なモデル化など,改良の余地が残されてはいるが,微視組織の変化と力学挙動を動的に連成した解析手法を確立したという点において,その業績は大きいといえ,今後の改良によってさらなる発展が期待できる.
 一方,受賞者は分子動力学法による形状記憶合金の変態・変形シミュレーションに関する研究でも顕著な成果をあげている.形状記憶合金の力学特性として,従来は巨視的な応力−ひずみ関係に基づく議論が中心であり,数値解析としては現象論的な取り扱いがほとんどであった.それに対して受賞者は,分子動力学モデルを用いた解析を行うことによって,原子スケールからの現象解明を試みている.EAMポテンシャルによって表現されるNiAlモデルを対象とした解析では,まず簡単な単結晶モデルでも形状記憶効果が現れ,応力−ひずみ関係にヒステリシスループが現れることを示している.次に多結晶モデルについても検討し,単結晶において鋸歯状であった変形時の応力−ひずみ関係が,多結晶では滑らかになり,巨視的に観測されている応力−ひずみ関係に近づく傾向が現れることを示している.今後は,結晶粒の形状や寸法とその分布,粒界構造,結晶方位関係など,より詳細な研究への適用が可能であり,その解析結果を利用することによって,より機能性の高い形状記憶合金の開発が期待できる.すなわち,従来のような合金組成の改良による材料開発に加え,微視組織制御による材料開発の可能性を導くものであるといえる.
 以上のように,微視組織を有する材料の相変態と力学挙動の数値解析に関する受賞者の研究業績は顕著であり,高い将来性と発展性が認められるため,日本材料学会学術奨励賞に値するものと評価した.

 
【学術奨励賞】

受賞課題 「高面圧下における鋼のフレッティング疲労強度に関する研究」

受賞者 (株)日立製作所 浅井邦夫

     

≪受賞理由≫ 実構造物では,組立誤差や運転中の経年変化などにより接触面に片当たりが生じて,局所的に高面圧が発生する場合がある.局所的に高面圧が発生すると,当該部の接線力が増加してフレッティングき裂が発生しやすくなる一方,面圧による圧縮平均応力の効果によりき裂進展が遅延する傾向がある.そのため,これらの健全性を評価するには,フレッティングにより発生したき裂が進展するかどうかを高精度に評価することが必要になる.そこで受賞者は,局所面圧が高い条件を模擬したフレッティング疲労試験で,停留き裂寸法に関する詳細な観察と3次元表面き裂を導入したFEM解析を実施して,破壊力学の適用によりき裂の進展・停留挙動を定量的に評価できることを示した.
受賞者の報告によると,強度の異なる2種類の12Cr鋼では,接触面圧がある値(弾性を仮定したHertzの接触面圧が約1.5 エ s0.2)のときにフレッティング疲労強度が最小値を示し,最小強度で比較すると静的強度を約40%増加してもフレッティング疲労強度の向上効果はほとんどない(約7%向上)ことを示した.このことは,安易に材料強度を高めるだけでは,フレッティング疲労強度向上の抜本的な対策にならない場合があることを警鐘する貴重な知見である.
 破壊力学によるフレッティング疲労評価に関して種々の手法が提案されているが,その中で受賞者が行った研究は,以下2点について新しいものである.第一は,より実際の挙動に即した評価モデルとして,1) 面圧による圧縮平均応力の効果,2) 表面き裂の形状効果,3) 傾斜き裂によるモードTとモードUの重畳効果,4) 微小き裂の進展下限界値ΔKth低下の効果を考慮に入れて評価した点である.個々の効果については従来から指摘されていたが,これら4点について同時に考慮に入れた報告はほとんどなく,従来の手法以上に評価精度を高めた点が特徴である.第二は,未破断試験体の停留き裂長さ,および進展き裂のプロファイルを詳細に観察することにより,破壊力学適用の有効性を定量的に明らかにした点である.受賞者の報告によると,1) ステージUにおけるき裂進展方向は,DKqmaxとなる角度から説明できる,2) 全き裂長さにわたってDK>DKthであれば進展し,あるき裂長さでDK≦DKthになればその長さで停留すると考える評価モデルは,複数の試験結果について統一的に説明できることを示した.さらに,平均応力が高いほど停留き裂長さが小さくなることや,静的強度が高い鋼材の方が,同じ応力振幅で比較したときの停留き裂長さが小さくなる傾向についても,実験結果と評価モデルがよく合うことを示した.
 これら多くの点について,破壊力学評価モデルと試験結果がよく合うことを定量的に示したことは,その有効性を裏付ける報告として,大変意義のある成果である.このことは,実機の健全性評価にあたり,発生しうるフレッティングき裂発生長さを保守的に仮定すれば,破壊力学の適用によりフレッティング疲労強度を定量的に評価できることを意味している.本評価手法は,蒸気タービン長翼をはじめ種々の構造物に適用されており,それら機器の信頼性向上に貢献している.
受賞者は,強度設計・製品開発にあたって必要な構造解析と強度試験の両方の技術に長けており,その力を製品の信頼性向上や限界強度設計に発揮していることから,日本材料学会学術奨励賞に十分値すると評価した.

 
【学術貢献賞】

受賞課題 「金属材料の疲労強度評価に関する研究業績と学会への貢献」

受賞者 福岡大学 遠藤正浩

     

≪受賞理由≫ 受賞者は,金属材料の疲労強度評価に関する研究によって材料学の学術分野で顕著な業績を上げるとともに,日本材料学会,ならびにその支部と部門委員会での活動を通じて学会へ多大なる貢献をしている.以下に,受賞者の研究業績および本会への貢献について,それぞれ概要を記す.
受賞者は,学術分野においては,金属疲労に関する研究を中心に多くの優れた業績を上げている.特に,疲労強度に及ぼす微小欠陥の影響に関する研究と微小疲労き裂の進展挙動評価に関する研究によって,材料学の発展に貢献してきた.まず,微小欠陥や微小き裂の形状と寸法が疲労強度に及ぼす影響を統一的に評価するための幾何学的パラメータとして,欠陥やき裂の投影面積の平方根であるareaを提案した.受賞者は,その後さらに発展させて,材質の違いを代表するパラメータとしてビッカース硬さを採用し,欠陥から発生した微小疲労き裂の進展下限界応力拡大係数範囲DKthおよび微小欠陥を有する金属の疲労限度swを予測する式,すなわち現在よく周知されているareaパラメータモデルを提案した.その後受賞者は,このモデルの応用範囲を拡げる研究を継続,展開してきた.このモデルは,微小欠陥,微小き裂,非金属介在物,鋳造欠陥,不均質相等に関連した疲労強度の研究分野において,国際的に高く評価されている.また,疲労試験を行わずに簡便に疲労強度が予測できるという実用的観点から,このモデルが疲労強度設計あるいは材料開発の現場で受け入れられている現状を考慮すれば,工業界における貢献度も極めて高いことがわかる.
 特に,微小疲労き裂の進展挙動評価に関する研究では,McEvilyのき裂進展モデルを応用した研究に関して,主に以下の業績を上げた.(1) き裂進展に対する正味の駆動力がゼロとなる条件に基づき,areaパラメータモデルの式に対して明確な物理的解釈を与えたことは,学術的に優れた業績といえる.(2) 2段多重変動振幅疲労の問題に関しては,一定応力振幅疲労では強度を低下させないレベルの低応力の繰返しがき裂開口点を低下させ,高応力が負荷された際のき裂進展に影響を与えるという新しい機構を提案した.(3) モデルを拡張して多軸応力問題にも適用できる解析法を新たに提案し,組合せ軸ねじり負荷を受けるき裂材や欠陥材の疲労寿命や疲労限度について精度よく予測できることを示した.(4) 応力集中部から進展するき裂にも適用できるようにモデルを拡張して,切欠き材の疲労強度を評価する手法を提案した.また最近の研究において,静的圧縮負荷下で繰返しねじり疲労試験を行うことにより,軸受鋼中をせん断モードで進展する微小疲労き裂の挙動の観察と進展下限界応力拡大係数範囲の測定に成功した.この研究は転がり疲労の問題と密接な関係があり,今後の研究展開に貢献することが大いに期待される成果といえる.
また,受賞者の本会への貢献としては,まず本部活動では,理事,評議員,企画事業委員,学会賞の専門審査委員を歴任し,長年論文査読委員を務めることにより,本会の運営と編集委員会活動に寄与した.また,本会における出版事業への貢献としては,英文専門書 メCurrent Japanese Materials Researchモ,教科書「改訂 材料強度学」と「初心者のための疲労設計法」の分担執筆が挙げられる.
 さて,受賞者の支部および部門委員会本会への貢献については,地域性と国際性という観点から独自的な特徴がある.まず,九州支部の幹事を17年務め,庶務幹事と会計幹事として長年支部の活動を支援してきた.支部設立30周年記念事業実行委員として,会員相互の連携促進のための会員情報データベースを構築した.また,支部活動の活性化と地域貢献を目的とした「技術懇話会」に立上げ時から参画し,その後も継続して地域の特性に配慮した多くの講習会や講演会の企画・運営を行い,自身も講師となって恒例事業の軌道に乗せたことは,支部活動に大きく貢献している.特に,九州地区で開催された第41期および第48期通常総会・学術講演会では,受賞者は運営面で中心的役割を担い,その貢献度は十分評価に値する.一方,本会の部門委員会活動では,疲労部門委員会と破壊力学部門委員会に所属して,破壊力学シンポジウムと疲労シンポジウムが九州地区で開催された際は企画と運営の両面で貢献した.疲労部門委員会の幹事歴は長く,地区幹事として毎年の研究討論会や第15回および第23回疲労講座において企画・運営・講師として活躍し,同委員会活動の発展に寄与してきた.疲労講座では,経営的に困難になりがちな地方開催での収益性の改善に尽力した.また,疲労部門委員会の企画事業である「初心者のための疲労設計法」講習会の立上げに参画,尽力した.一方,受賞者は,疲労の研究に関連する著名な外国人研究者を多数招聘し,九州地区の研究を世界にアピールし,国際的にも幅広い学術活動を行ってきた.例えば,九州支部内で外国人を交えた特別講演会や研究討論会を頻繁に開催し,特に若手研究者に対して外国人研究者との積極的交流を奨励してきた.これらの活動は,地方,中央,海外の地域の意識差をなくすユニバーサルな学会活動の新しい試みとして高く評価される.
 以上のように,受賞者は,材料学,とりわけ疲労強度研究の分野において顕著な研究業績を上げるとともに,本会の事業の裾野拡張を中心に,本会活性化にあたっても多大な貢献をしている.よって,受賞者は材料学の進歩発展に寄与するとともに,本会へも大きく貢献していると認められ,日本材料学会学術貢献賞に十分値するものと判断した.

 
【支部功労賞】

受賞課題 「衝撃工学の研究推進と東北支部(北海道地区)および北海道支部活動への長年の貢献」
受賞者 室蘭工業大学 臺丸谷政志

     

≪受賞理由≫ 受賞者はこれまでに,機械工学分野の多岐にわたる研究を推進してきているが,なかでも衝撃工学分野および熱応力・変形に関連する研究業績が特筆される.衝撃工学に関連する研究を分類すれば,@ 連成熱弾性論に基づく応力波の伝播と熱弾性減衰に関する研究,A 材料の弾塑性波伝播に関する数値解析と実験検証,B セラミックス,コンクリート等の脆性材料の衝撃破壊挙動に関する研究,C 自動車の衝突安全性と軽量化を図るためのテーラードブランク溶接継手に関する衝撃引張変形強度の測定法と評価,D 衝撃工学に基づくスポーツ・武道の応用研究,その他である.上記の研究について2,3付言すれば,@ の波動伝播に及ぼす熱弾性効果に関する研究は我が国のこの分野での先駆的研究であり,B の脆性材料の衝撃破壊研究に関連しては,その一部として従来困難とされてきた脆性材料の引張衝撃試験を反射引張波衝撃試験法として確立している.D のスポーツ・武道の応用研究は,衝撃工学の他分野への応用であり,空手道の威力や日本刀の科学的合理性を衝撃工学の観点から解明したものである.それらの研究は130編を越える著書,学術論文,国際会議Proceedings Paper, 解説等となって著わされており,いずれも高い評価を得ており衝撃工学の分野に大きく寄与する研究業績である.これらの独創性に富み有用性の高い一連の研究業績に対して,平成18年度日本材料学会・衝撃部門委員会・業績賞が授与されている.また,日本材料学会・衝撃部門委員会委員長(2000年〜2002年)として当該分野の発展と後進の育成,研究成果の社会還元に務めるなど,衝撃工学分野の研究推進と活性化に多大に貢献している.また衝撃工学や熱応力に関する各種の国際会議委員や国際学術誌のReviewerを務めるなど国際的にも活躍している.
 一方,受賞者は,北海道支部創設以前の東北支部・北海道地区の評議員・常議員として,また平成12年の北海道支部設立以後は北海道支部の評議員・常議員として,長年,東北支部・北海道地区および北海道支部運営に積極的に携わり,支部の発展・活性化に貢献している.北海道支部設立に当たっては,石川博将氏(初代支部長),野口徹氏(二代支部長)と共にその設立に尽力している.支部設立の平成12年,第49期日本材料学会通常総会・学術講演会(札幌)の実行委員として運営に積極的に携わり,また第7・8期北海道支部長(平成18年〜平成19年)としてその後の支部の発展と活性化に貢献している.この間,本部理事として4期(第42期〜第43期,第55期〜第56期)本学会活動にも寄与している.
 以上のように,受賞者は衝撃工学の分野において独創的かつ有用性の高い研究業績および功績をあげており,また北海道支部の創設と発展・活性化に多大に貢献しており,日本材料学会支部功労賞に値すると評価した.

 
【支部功労賞】

受賞課題 「高分子の化学緩和の解明と理論体系化および工学基礎確立に関する研究と日本材料学会東北支部に関する貢献」

受賞者 東北大学名誉教授 村上謙吉

     

≪受賞理由≫ 受賞者は,高分子とくに架橋高分子のゴム状態における応力緩和を分子切断に基づく化学緩和(ケモロージ)による分子論的アプローチで体系化した.すなわち,架橋高分子を例にとれば,その劣化は1) 主鎖切断,2) 架橋点切断,3) 交換鎖切断反応,4) 架橋生成反応に分けられ,それらの組み合わせにより,種々の高分子の劣化が進行する.受賞者は,切断判定を関知する極めて精度の高い応力緩和計測法を考案し,また,一定緩和および不連続緩和を組み合わせることにより,代表的な高分子の化学緩和の観測を行い,上記4過程を含む構成式を確立するに至った.これら研究成果は,Chemoreology of Polymer : Kennkichi Murakami and Katsumichi Ono, Polymer Scientific Library I, Elsevier Scientific Publishing (Amsterdum, NewYork) 1977に纏められ,この分野の基礎を確立した.
 これらは分解・架橋が競合するゴムの劣化・破壊現象の基礎を与えるもので,工業的にも免震ゴムの寿命設計の考え方あるいは原子炉内に使用されている高分子材料の耐放射線性の評価指標の基礎のひとつにもなっている.
これらの業績に対して,オーエンスレガー賞(日本化学会),高分子科学功績賞(高分子学会)優秀報文賞(日本ゴム協会)等の多数の賞を受賞されており,言うまでもなく,わが国のこの研究分野におけるパイオニアであるとともに,世界的な権威者のひとりでもある.
 また,支部貢献についても,昭和59年〜平成元年まで,東北・北海道支部支部長を務め,支部の活性化に尽力された.とくに,受賞者の専門領域であるケモロジー(化学緩和)による高分子の劣化機構解明は,ゴム・プラスチックの耐環境寿命に関わり,これらは高分子以外の金属材料,建築材料あるいはセラミックスの寿命機構解明に取り組んでいる支部所属会員への啓蒙となり,支部では材料間の相違を越えた材料の耐環境寿命機構に関する活発な議論が進められた.このように,支部活動を通じて材料学の研究発展に寄与する場を支部に与えられた.
 他方,日本化学会,化学工学会,高分子学会等の化学系他学会各支部との共催事業にも努められ,とくに,東北地区学会連携活動として現在まで続く化学系学協会東北大会の運営にも尽力され,化学系分野における材料学会東北支部のプレゼンス確立に寄与された.
 以上に述べたように,受賞者は材料学の進展に貢献し,また日本材料学会東北支部の活動を活性化させた.この功績は,日本材料学会部功労賞に相応しいものである.

 
【支部功労賞】

受賞課題 「関東支部活動への長年の貢献とセラミックコーティングの欠陥評価技術確立等に対する貢献」

受賞者 工学院大学 木村雄二

     

≪受賞理由≫ 受賞者は,長年にわたりセラミックコーティング・システムの構築と欠陥評価試験法の確立に関する研究に取り組んできた.すなわち,CVDならびにPVDセラミックコーティングの薄膜構造制御手法の確立の必要性から,@ 基材表面の改質,A 薄膜作製の最適条件の模索を通じた密着性の改善を含む欠陥の制御,ならびB TiO2の光触媒機能に基づくカソード防食による欠陥部における腐食抑制の可能性の検討,の3つの視点から,皮膜/基材の界面構造の最適化をはかることを通じて,耐環境機能性の改善に向けたセラミックコーティング・システムの構築を目指し種々の検討を行ってきた.これら多大なる成果を踏まえ,作製された各種のドライコーティング膜の性能の評価と製膜条件との対応の明確化を意図して日本機械学会基準JSME S 010「ドライコーティング膜の欠陥評価試験法」を制定した.これらの研究活動に対して,平成9年日本機械学会創立100周年記念事業功労者の表彰を受賞した.
 近年になり,生体材料工学に関連する各種の研究に取り組み,硬組織代替材料として使用されているTi合金ならびに形状記憶効果と超弾性効果を有する魅力的な材料であるNi-Ti形状記憶合金などの金属材料,ならびにAl2O3,ZrO2などのセラミックスの腐食特性および生体適合性の評価をin vivoならびにin vitro試験により実施し,各種表面改質法によるこれらの改善の可能性の検討を行った.
 さらに,平成16年4月,本会に生体・医療材料部門委員会が発足した際は,この部門委員会の発足メンバーとしても積極的に参加し,また後述する関東支部の活動においても第3回生体・医療材料部門委員会(公開)を日本材料学会関東支部セミナー(主題「産学から見た生体・医療材料」)として当部門と共催で平成16年10月に開催するなど医療材料に関する研究の発展ならびにこれらの普及活動を積極的に推進した.
 また,受賞者は平成6年(第43期)関東支部の常議員に就任し,以降15年間常議員を務め,その間,第46,47期と第52,53期の4年間理事を,また第52,53期の2年間関東支部長を務めた.この間,講演会や研究会(シナジー研究会,リスク研究会,材料分野のシーズ創製とニーズ応用に関する研究会)など,おもに材料強度,医療生体材料ならびに信頼性・リスク関係の支部事業を数多く推進し,支部の発展に多大な貢献をつくした.特に,第45,46期には,若い研究者が参加しやすい支部となるよう支部活動の内容を一新させようとする方針のもと,その推進役として大きな役割を果たした.現在,関東支部が企画開催する,若手研究者育成のための前述の研究会やフォーラム,講演会や見学会などの事業は,いずれもほぼこの時期にその母体が確立され,さらに発展したものである.また,支部開催の材料フォーラム,講演会,見学会などの企画,事業を積極的かつ定期的に提案し,支部活動の安定的な発展のために力を尽くした.さらに,関東支部セミナー「日米の工学教育最前線」を実施するなどして材料分野の工学教育についても啓蒙的な活動をした.
 さらに,受賞者は,平成15年(第52期)5月に関東支部担当で開催が予定されていた材料学会総会および併設行事の準備に前年度より取り組みはじめ,支部長となった平成15年(第52期)5月には第52期通常総会講演会の実行委員長として,ブース展示,カタログ展示,広告などの資金集めのための種々の施策を実施し,新しくスタートに向け準備中である生体・医療材料部門委員会の活動を情宣するための「生体・医療材料分野の技術開発と将来展望(企画事業委員会企画)」をオーガナイズセッションとして設置することを含め,企画参加者数447 名,講演件数233件を得,それまでの記録を更新するなど,同通常総会講演会を無事に成功に導いた.
 以上のように受賞者の研究業績および日本材料学会関東支部の活動に対する貢献は多大なるものがあり,日本材料学会支部功労賞に価するものと評価した.

 
【支部功労賞】

受賞課題 「非弾性構成式および均質化法に関する研究の推進と支部運営への貢献」

受賞者 名古屋大学 大野信忠

     

≪受賞理由≫ 受賞者はこれまで非弾性構成式,均質化法,高温変形等の分野において広範な研究を行っており,それらは「非弾性構成式の定式化とその応用」および「非線形均質化法の理論構築とその応用」に大別される.
 「非弾性構成式の定式化とその応用」に関しては次のような業績をあげている.ラチェット変形は繰返し負荷のもとで生じる進行性の変形であり,機器設計上重要であることが多いが,二次的変形の累積現象であるため,定量的シミュレーションは困難であった.そこで,非線形動的回復に基づく移動硬化モデルを提案するとともに有限要素法へのインプレメンテーションを行った.このモデル(Ohno-Wangモデルと呼ばれる)は,国内外の多くの研究者により使用されて大変高い評価を受けており,その原著論文 (Ohno and Wang, 1993) の引用回数は200回を超えている.これに関する一連の研究は,受賞者らがおもに1990年代に行ったものである.2000年以降は,情報機器の電子パッケージングで重要な技術課題となっていた鉛フリーはんだ接合部の非弾性解析を目的として,速度依存分離型非弾性構成式を提案し,有限要素法へのインプレメンテーションを行った.開発されたプログラムは,汎用FEMソフトのユーザサブルーチンとして実用に供されているだけでなく,商用・大規模並列CAEシステムADVENTUREClusterに移植されている.この他の非弾性構成式の研究としては,異方クリープ損傷モデルに関する研究や繰返し硬化のひずみ範囲依存性に関する研究があり,これらも国際的に高く評価されている.「非線形均質化法の理論構築とその応用」に関しては,1995年に着手し,まず時間依存変形を示す周期複合材料の均質化法を示すとともに,その応用として繊維強化複合材料や織物複合材料の微視的構造が巨視的変形に及ぼす影響を解析した.つづいて,更新Lagrange形式での有限変形の均質化法を客観性の原理が満足される形で厳密に定式化するとともに,この理論に基づいて周期構造体の微視的分岐条件を合理的に導いた.さらに,導出した分岐条件を正六角形ハニカムの面内座屈問題に適用し,二軸座屈モードや花状座屈モードといった複雑な微視的座屈モードの理論的解明と数値シミュレーションに世界で初めて成功した.最近では,この研究を発展させ,セル状固体におけるセル集合を周期単位にとった解析を弾性だけでなく弾塑性の場合にも行っており,微視的分岐の周期長さ依存性と巨視的不安定との関係に関して第一級の研究成果を上げている.これらの研究は,セル状材料の微視的座屈の解析を可能にするものとして国際的に大変高く評価されており,国際 会議におけるKeynote LectureやPlenary Lectureの機会を多数与えられている.
受賞者は東海支部活動の活性化にもこれまで多大な貢献をしてきた.第41〜42期においては,東海支部庶務幹事として支部長を補佐し,支部の運営全般および各種企画の実施に貢献した.第53〜54期においては副支部長を務め,つづいて第55期には支部長に就任し,講演会,イブニングセミナー,見学会などを企画し,支部活動を推進した.また,2007年5月に東海地区で開催された日本材料学会第56期通常総会・学術講演会においては実行委員長を務め,成功に導いた.
 以上のように,受賞者の研究業績および日本材料学会東海支部の運営・発展に対する貢献には多大なものがあり,日本材料学会支部功労賞に値するものと評価した.

 
【支部功労賞】

受賞課題 「材料強度に関する研究の発展および北陸信越支部活動・運営に対する貢献」

受賞者 長岡技術科学大学 武藤睦治

     

≪受賞理由≫ 受賞者はこれまで,(1) フレッティング疲労,(2) コーティング・接合とその強度評価,(3) セラミックスおよび金属間化合物の高温破壊じん性・疲労特性,(4) 電子パッケージ用はんだの低サイクル疲労・クリープ疲労き裂伝ぱ特性,(5) マグネシウム合金の疲労特性,(6) 機能性ガラスおよびセラミックスの開発と特性評価,などの研究に取り組んでいる.特に,フレッティング疲労では,フレッティング疲労のメカニズムを明らかにするとともに,早期に破壊力学的アプローチを取り入れ,通常フレッティング疲労き裂がごく初期に発生し,疲労寿命がフレッティング疲労き裂の伝ぱ寿命で占められることに基づき,フレッティング接触の応力状態を考慮した破壊力学的寿命評価法を提案した.タービンなどのエネルギー機器では高温でのフレッティング疲労が重要な問題であることから,その特性を明らかにするとともに,その対策として,蒸気タービンにおいて,圧縮残留応力は使用温度で若干緩和されるものの,長期使用に対してもショットピーニングが有効であることなどを明らかにしている.
 また,フレッティング疲労き裂の発生が最大のせん断ひずみ振幅方向に生じ,ただちに最大接線応力振幅方向に進展するという仮定を導入し,接触要素を導入した有限要素法によるシミュレーションを行い,フレッティング疲労き裂発生・伝ぱ経路およびこれに基づき推定した疲労寿命が,実験結果とよく一致することを示し,この手法を用いれば,広く実際の部材のフレッティング疲労寿命ならびに疲労強度を推定できることを明らかにした.これらの一連の成果は日本機械学会材料力学部門業績賞として評価されている.また同時に,日本機械学会基準「フレッティング疲労試験方法」策定の主査として,本基準を取りまとめた.また,はんだ材の低サイクル疲労・クリープ疲労では,はんだが軟質材であることから,CCDカメラを用いた非接触ひずみ計測法を開発し,従来の有鉛はんだおよび無鉛はんだについて低ザイクル疲労特性を調べ,それらの温度・ひずみ速度依存性を明らかにした.また従来KあるいはJにより扱われていたはんだのクリープき裂伝ぱ特性についても,はじめてC*による整理を行い,その特性に及ぼす温度依存性,繰返し速度の影響について検討している.はんだ材は室温でもクリープ挙動を示すが,繰返し速度が小さく,応力比が高い方がより顕著なクリープ挙動を示し,その領域でのC*で整理した伝ぱ曲線は,クリープき裂伝ぱ曲線と一致すること,Sn-Pb系有鉛はんだでは生じないが,Ag-Sn系無鉛はんだでは,繰返しに伴う動的再結晶により,結晶粒径が小さくなることなどを明らかにしている.これらの成果は,UKのLiterati ClubよりBest Paper Awardとして,また,Int. Journal of FatigueのOne of the most cited articlesとして評価されている.
 一方,受賞者は北陸信越支部活動に常議員,県幹事,庶務幹事および支部長として,長年にわたり,多大の貢献をしてきた.特に,庶務幹事として,支部会計の安定化のために材料試験に関する講習会等を各県持ち回りで行うシステムの導入,ならびに県常議員選挙の簡素化などを行うとともに,支部長として,支部活性化と会員増強を目的として,支部賞(支部奨学賞,支部技術奨励賞,支部功労賞)を導入した.その他,支部における材料学の普及のため,電子顕微鏡の講習会を長年にわたり企画するとともに,多くの特別講演会などを企画している.また,長岡において「第3回フレッティング疲労に関する国際会議」を開催し,北陸信越地域からの情報発信に貢献した.
 以上のように,受賞者の研究業績および日本材料学会北陸信越支部の運営,発展に対する貢献は多大なものがあり,日本材料学会支部功労賞に値するものと評価した.

 
【支部功労賞】

受賞課題 「材料の高温強度に関する研究推進と支部運営への貢献」

受賞者 京都大学名誉教授 大谷隆一

     

≪受賞理由≫ 受賞者は,昭和42年に京都大学工学部助教授に着任以来,材料の高温強度に関する部門の教育,研究を担当した.力学的観点より高温強度を明らかにすることにより,機械材料に関する基礎学術の発展に多大な功績を挙げるとともに,発電機器や電子機器等の信頼性確保を通じて工業的応用に顕著な貢献をした.とくに,負荷時間依存の変形・破壊挙動を示すクリープ特性,および,負荷繰返し数依存性を示す疲労と時間依存性を示すクリープの相互作用による変形・破壊特性について体系的研究を進めた.特筆すべき成果として,以下の7つを挙げることができる.
 (1)内圧・軸荷重組合せクリープにおける破壊基準の確立
 (2)クリープにおける切欠き強化と切欠き弱化の力学的原因解明
 (3)クリープ疲労相互作用下における寿命評価法の確立
 (4)クリープ,高温疲労,熱疲労における巨視き裂伝ぱに関する破壊力学の確立
 (5)クリープや高温疲労における微視組織的微小き裂の伝ぱ特性の解明
 (6)キャビティや微小欠陥の成長特性の解明
 (7)多様な耐熱材料のクリープ疲労破壊特性の理解
 いずれの成果でも世界に先駆けた実験・解析を率先して実行し,大きな賞賛を得ている.また,高温強度に関する力学特性の普遍的な解明を目指す研究思想は高く評価されており,成果は本分野の後進研究者の概念基盤となっている.
本会においては,理事,編集理事,庶務理事,関西支部長および副会長として学会活動に貢献した.
 以上のように,受賞者は,材料の高温強度の研究を通じて,工学への貢献,興行への多岐にわたる重要な貢献があり,高く評価される.従って,日本材料学会支部功労賞に値するものと評価した.

 
【支部功労賞】

受賞課題 「材料学の地域発展と中国支部活動への永年の貢献」

受賞者 広島国際学院大学 中佐啓治郎

     

≪受賞理由≫ 受賞者はこれまでに,材料学ならびに材料強度学の分野で優れた業績を挙げた.中でも環境強度,表面・界面強度に関してこれらの分野の学術・技術の発展に大きく貢献するとともに地域にその成果を還元した.研究の具体例として,受賞者は早い時期から破壊力学の重要性に注目し,1969年から高強度鋼の破壊じん性と金属組織の関係を調べている.これと平行して,高強度鋼の変動荷重下の遅れ破壊(水素ぜい化割れ)き裂伝ぱ現象を研究し,変動応力の重畳により,ある繰返し速度でき裂伝ぱ速度の遅れが最大となることを初めて見出し,その原因がき裂先端の応力場と集積水素の相互作用によるものであることを綿密な実験・解析とシミュレーションにより明らかにした.さらに,水素ぜい性,応力腐食割れ,溶融金属ぜい性におけるき裂分岐現象の解明に取り組み,き裂伝ぱの速度制限過程が分岐をひき起こす原因であることを明らかにした.その後,研究の中心を表面・界面強度の問題に移し,引張り試験法,エッジインデント法を開発して,各種溶射皮膜・スパッタ薄膜のはく離強度評価を行うとともに,遮熱溶射皮膜(TBC)のはく離寿命予測法の提案を行った.最近では,スパッタエッチングにより鋼表面に微細な突起物を均一に形成する方法を見出し,その形成機構解明と機能性評価・用途開発に取組んでいる.受賞者は,本学会の破壊力学部門委員会,疲労部門委員会,腐食防食部門委員会,マイクロマテリアル部門委員会の委員・幹事として活躍した.とくに平成16・17年度には,破壊力学部門委員会委員長としてこの分野の発展に貢献し,その後も界面強度評価小委員会の主査として活動している.受賞者は国際的にも広く活躍し,2001年には2nd. Int. Conf. on Environment Sensitive Cracking and Corrosion Damageの広島市開催を提案して当会議の共同実行委員長を務め,第3回の国際会議(2004年,中国青島市開催)では共同議長を務めた.
 一方,支部活動として,受賞者は,昭和58年度〜平成5年度の間,支部幹事を務めて支部運営を支えるとともに,平成3年〜平成11年までは「材料強度・信頼性研究談話会」の広島地区世話人として,若手研究者の研究水準の向上に貢献した.また,平成16・17年度には,中国支部支部長として支部活動を主導した.とくに,支部賞(学術奨励賞および技術賞)の表彰制度を創設し,支部の活性化をはかった功績は大きい.地域の社会的活動としては,中国地域産業防災対策推進委員会(中国経済産業局)の委員を長年務め,瀬戸内海地区コンビナートの事故防止に貢献した.また,地域コンソーシアム事業,広島県大型プロジェクト研究事業,中小企業事業団創造基盤技術移転アドバイザー制度,広島県および関係団体の各種研究会・講習会の主査・講師などを通して,地域産業界の材料技術・安全確保技術の向上に貢献した.
 以上のように,受賞者の研究業績および日本材料学会中国支部の運営,発展に対する貢献には多大なものがあり,日本材料学会支部功労賞に値するものと評価した.

 
【支部功労賞】

受賞課題 「四国支部の活性化と材料強度評価の地域発展に対する貢献」

受賞者 徳島大学 英 崇夫

     

≪受賞理由≫ 受賞者は,昭和44年に徳島大学工学部に着任以来,教育面では機械計測関連の教育を担当すると共に,最近では工学教育の研究を行い,学生の創造的学習方法の開発に取り組んでいる.ものづくりの場と学生間の交流の場を作ることが教育の原点であるとの考えから,国内の連携大学間で学生を含めた工学教育に関するシンポジウムの開催,さらに,今年10月には韓国プサンにおいてAsian Conference on Engineering Educationの開催を計画するなど,国際的な視野の下での教育活動を行っている.研究面ではX線応力測定を専門としており,日本のX線応力測定の基盤を築き上げた.粗大結晶粒材の応力測定に始まり,2相材料の微視的応力に関して,1969年に鋼中のセメンタイト相の応力測定を世界で初めて成功させた.このとき国内で最初に導入した応力測定機構は,現在側傾法と呼ばれ,その後日本のX線応力測定技術の発展に大きく貢献した.また,X線応力測定において基本となっている従来の平面応力基準の解析法を再検討した3軸応力解析の基準についての論文は,世界的に注目され,近代のX線応力測定の基準となる研究として高く評価されている.さらに,最近では薄膜の残留応力測定に関して先駆的な研究をしており,放射光を利用してナノサイズ厚さの膜の応力測定を成功させた.配向性AlN薄膜のX線応力測定の研究では平成6年に日本材料学会の論文賞を受賞した.
 X線材料強度部門委員会のメンバーとして,昭和60年度から委員会幹事,平成7年から同総括幹事,平成11年度から14年度までは同委員長として,X線材料強度学の発展に大きく貢献し,平成16年にはX線材料強度部門委員会業績賞を受賞している.さらに,1991年に開催された「第3回残留応力に関する国際会議」の実行委員を務めたほか,本会議の国際理事を1994年から歴任している.さらに,2001年に開催された日本材料学会創立50周年記念の際の「21世紀のための材料科学に関する国際会議」において,X線材料強度に関する国際シンポジウムをチーフオーガナイザーとして企画・実施した.
 本会においては,会誌編集委員会委員,評議員,理事などを歴任し,支部活動としては,中国四国支部幹事,同常議員,また,四国支部においては,平成14年度に四国支部副支部長,次いで平成15年度に四国支部支部長に就任し,支部の活動に貢献した.特に,平成15年度には,新しい支部活動としての「夏季材料セミナー」を創設した.これは四国4県の学生を主体とした1泊2日の研究会であり,研究発表の場となる集まりである.以来,このセミナーは毎年継続して開催されており,学生および教員の研究交流の場として定着し,四国支部の材料学の活発化に役立っている.また,その後も常議員として支部活動を支えている.
 以上のように,受賞者は,教育,研究の両面から若者の学力および研究力の向上に強い情熱を持っている.特に研究面では日本材料学会に主軸を置いて活動をしており,信頼度の高いX線応力測定を確立することで,国内外および地域の材料評価の分野に大きな貢献をした.これらの活動はまさしく日本材料学会支部功労賞に値するものと評価した.

 
【支部功労賞】

受賞課題 「日本材料学会九州支部運営および複合材料国際会議開催への貢献」

受賞者 熊本大学 坂本英俊

     

≪受賞理由≫ 受賞者は,材料強度の実験力学および計算力学的アプローチによる研究で多くの業績を上げると共に,それらの成果を支部における材料学についての啓発活動と活性化に積極的に展開し,技術移転に貢献した.さらに支部長始め支部の役員を務める中で各種講演会や講習会の主催あるいは企画・運営を通じて支部活動の中心的役割を果たした.以下にそれらの概要を述べる.
 受賞者は,大学人として材料強度関連の最新の研究動向を地域に紹介するとともに,産学連携の推進を通じて地域の活性化・発展に寄与する様々なアイデアを提言し,それらを実現して支部の発展に寄与した.前者については,本部との共催で複合材料関係の国際会議および研究会を開催するとともに,支部総会や支部主催特別講演会で先端研究を紹介するための特別講師を積極的に招聘し,支部の学術活動の発展に尽力した.また後者については,九州地区における企業の研究動向(特に複合材料関連)の調査を実施し,学術研究のシーズ発掘を行い産学連携における重要性に目を向けた積極的な活動を行って材料強度研究,その他の発展に貢献した.さらにこのような学術活動を,地域の材料学の進歩発展に展開するため,支部独自および本部との共催の各種講演会開催以外に,材料強度に関する研究の発展および地域との連携を図り,材料強度関連の研究会を九州各地で開催した.これにより地域に学会活動をアピールし,材料学会支部活動の活性化を側面から支援した.とりわけ地元企業・教育研究機関・公設試験機関と共同で行った「複合材料の信頼性評価」,「機械構造材料強度最適化CAE技術」,「金型設計最適化技術と評価」などに関する講習会は,地域の材料学における技術レベルの向上に大きく貢献した.また,第6回アジア・オーストラリア地域複合材料会議を複合材料部門委員会主催で熊本に招致し,複合材料に関する最先端の技術交換と研究者交流を推進し,九州地区の材料学の国際化に貢献したことは特筆に値する.
 一方,受賞者は,平成10年に支部常議員・幹事に就任以来,約11年間九州支部の活動に携わり,歴代の支部長を支えながら,支部の活動の企画・立案に積極的に関与し,支部活動の持続的発展に貢献した.そして,平成16年に支部長に就任後は九州各地区での産学交流・連携を促進するため,技術交流会(大分,宮崎)を企画し,支部活動が北部九州地区に偏りがちであったのを九州全域に広げ,地域の活性化に貢献した.この他,総会講演会では材料学に関する最近のトピックスの講演を企画し,研究活動の活性化に力を注いだ.とくに,九州支部創立40周年の記念事業においては,企画・運営の重責を担い,支部創立40周年記念事業に支部長補佐として新素材に関する特別講演会と40周年誌の発行を行った.また,この事業に対する協賛企業の募集に精力的に取組み,本事業の財政的基盤作りにも大いに貢献した.
 以上のように,受賞者は長年にわたって支部幹事および支部長として支部の学会活動を積極的に支援すると共に,産学共同研究を強力に発展させることを念頭に,九州地区における材料学研究の向上に地道に取り組んだことは高く評価される.従って,日本材料学会支部功労賞に値するものと評価した.